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【日本SF大賞】移住惑星の逆さ年代記。新井素子『チグリスとユーフラテス』の感想

最後のシーンを読み終えたとき、

 

ボクの目に映ったのは、規則正しくならんだ文字列ではなくて、

 

惑星ナインというひとつの命の鼓動だった。

 

『チグリスとユーフラテス』

 

新井素子作のSF大河小説。

 

今から約20年ほど前の作品ではあるけれども、

 

どこか今の私たちにも通ずるものを感じる。

 

あらすじ

時は近い未来。

 

地球の爆発的な人口増加によって、様々な問題が人類をおそっていた。

 

その危機を乗り越えるために、人々は地球外惑星に移住することを計画する。

 

そして9番目の移住惑星ナインに向けて、

 

キャプテン・リュウイチレイディ・アカリ率いる宇宙船団が出発した。

 

それから約400年、惑星ナインでは急激な少子化による人口減少が進んでいた。

 

そして最後のこども、ルナが生まれる。

 

やがてナインの人々が死に絶えたあと、

 

すでに老婆となりはてたルナは、

 

自分が生まれた意味を問うために、

 

コールドスリープについていた、特権階級の女性たちを起こし始める。

ルナの母であるイヴ・Eの親友だったマリア・D

 

宇宙歴180年代、惑星管理局員のエリートだったダイアナ・B・ナイン

 

宇宙歴80年代、純潔の地球を継ぐものとして特権階級だった関口朋実

 

そして、ナインを創ったレイディ・アカリを。

 

これは、惑星ナインの歴史を、ルナを通して語られる、逆さ年代記である。

 

感想

それぞれの時代で、それぞれのドラマがある

『チグリスとユーフラテス』の最大の面白さは、

 

それぞれの時代の、それぞれの人々のリアルな葛藤にあるだろう。

 

マリア・Dであれば、生殖能力をもつ人間が減少する中、

 

子どもを産む可能性のある有資格者として育ったにも関わらず、

 

妊娠することはかなわなかった。

 

それはつまり有資格者であることがすべてだった彼女にとっては、

 

死の宣告に等しかった。

 

ダイアナ・B・ナインも、自分が幼少期から求められてきた、

 

優秀な惑星管理局員になったものの、

 

深刻な飢饉の中で、どの民を生かし、どの民を見捨てるか、

 

というあまりにもむごい選択を強いられる。

 

こうした惑星ナインを創ってきたどの時代の人々も、

 

身を引き裂かれるような思いをしてきた、その事実が、

 

この作品のリアリティを生み出している。

 

ルナが見せる、惑星ナインの、移住計画の最期

この物語で、コールドスリープ中の女性たちを起こすということは、

 

ルナからの復讐であった。

 

コールドスリープにつける人間とは、すなわちその時代の特権階級。

 

つまり惑星ナインを創ってきた人々だ。

 

最後の子どもとしての運命を背負わされたルナは、

 

その身の不運さを嘆き、彼女らに復讐しようと思ったのである。

 

惑星ナインを必死に創り、ナインの未来にわずかな希望をもってコールドスリープについた女性たちを起こし、

 

ナインの400年の顛末である、最後の子どもルナを見せつけるために。

 

ルナが初めて問う、レイディ・アカリへ

本作下巻は、すべてレイディ・アカリの章だ。

 

ルナにとって、それまでの三人は、あくまでも復讐するために起こした女性たちだった。

 

しかしレイディ・アカリを起こしたのには、全く違う理由があった。

 

それはルナが初めて問う、「なぜイヴ・Eは自分を産んだのか」ということだった。

 

最後の子どもになる、それはその言葉が表すよりはるかに恐ろしい。

 

最後の子どもになる可能性があるのに、なぜイヴ・Eは自分を産んだのか。

 

彼女はこんな悲しくて寂しい世界を見せるために、ルナを産んだのか。

 

いったい何を思ったのか。

 

そんな答えの分からない問いに、

 

レイディ・アカリは、レイディとして、

 

また、地球出身の穂高灯として、

 

一緒に答えを探していく。